恋せよ乙女
「何? 何か用?」
別に、そこまで親しい訳ではない高橋君。学祭準備の係も違うし、特に用事なんて無いはずなのだけれど。
彼に近寄りながらそう問えば、「早く早くっ!」と急かされ、不審気に仕方なく歩みの足を早めた。
「…で、何?」
「あぁ、えーっと。呼んでおいてアレなんだけど、実は、俺が加藤に用がある訳じゃねぇんだ。」
「は? どういう……」
“どういうこと?”
そう問うはずだったあたしの言葉は、高橋君が親指を向ける方向へ視線を動かした刹那、瞬時に解決して。
「っつーことで。加藤に用があるのは、俺じゃなくてコイツ。」
「そう。ありがと。」
「おう。」
あたし達に背を向け、小さく右手を上げて去っていく高橋君。その姿を見届けたあたしの視線は、壁に寄り掛かりながら腕を組む氷室さんへと移された。