恋せよ乙女
チリン、と、ドアを開けると同時に涼しげな音が鳴る。踏み入れた店内には、その名通りクラシック音楽が流されていて、装飾品などは全てアンティーク調で揃えられていた。
人は比較的多いのに店内に漂っている穏やかな雰囲気に、ただ漠然と自分が場違いなような気がした。
「……あそこの席に座って待ってて。」
そんな風に感じていたあたしを知ってか知らずか、窓際にあるポツリと空いている席を指差し、そう言った氷室さん。
あたしが答えるのを待つことなく、彼はカウンターの方へと向かう。
そして残されたあたしは、それを見届けることなく指示された席に腰を下ろして。
朝から今まで、ずっと立ちっぱなしだったことに今さらながら気づいて、小さく息を吐いた。