恋せよ乙女

「………疲れた?」


ぼけっと気を抜いていたあたしに、不意に頭上からかけられた問い。
驚いて視線を上げれば、そこには微かな笑みを湛えた氷室さんと、トレーを手にした店員さんが立っていた。

氷室さんがあたしと向かい合うように腰を下ろしたことを確認すると、店員さんはトレーからカップ2つとケーキ1皿を机上に置いていく。そして一礼した後、カウンターへとさがっていった。


「はい、紫音。」

「あ、ありがとうございます。」


氷室さんによって、あたしの目の前に置かれたケーキと紅茶。漂う紅茶の香りが鼻孔を擽るのを感じながら、視線を氷室さんへと向けた。
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