恋せよ乙女
そんな氷室さんを見ながら、あたしはフォークを手にとり、ケーキに手を付ける。
見た目は、卵形のスポンジケーキに粉砂糖をふったような、いたってシンプルなケーキ。若干ワクワクしながらフォークで割れば、中から二層のクリームが顔を出した。
一層目はなめらかなホイップ、大半を占める二層目はとろとろのカスタード。
一口大に切り分けて口へ運べば、ほのかな甘味やなめらかな口触りが広がるとともに、スポンジケーキ自体がただのスポンジじゃないことに気がついて。
「美味しい……」
思わずそう、口をついて出た。
それもこれも、本当に、心からそう思えたからなのだけれど。
止まることなく、黙々とケーキを口に運ぶあたし。その反応を見ていた氷室さんは、何も言うことなく、ただ満足げに微笑んでいた。