恋せよ乙女
すくっと立ち上がり、強くドアを叩きながらドアの向こうに向かって叫ぶ。
「ここだよ、ここに居る!」
堰を切ったように溢れ出す涙を拭うことなく、何度も、何度も。
「ここ…っ、出して、怖い……」
何が怖いか、なんて、そんなのはわからないけれど。一心不乱に叩いて、叫んで。もう、自分自身訳がわからなくなっていて。
刹那、ガチャガチャと擦れ合う金属音。
カチャリと小さく音がしたと同時に、数時間ぶりにドアが開けられた。
久しぶりの光の刺激に目を細めて見てみると、空は既にオレンジ色が闇に染まりかけ、不気味な雰囲気を醸し出している。
そんな空を背にしてあたしの前に立っていたのは、あたしが助けを心待ちにしていた人……では無く、珍しく心痛な面持ちで顔を歪めた隼人だった。