恋せよ乙女

どんなに泣いても、ぼやいても。
結局のところ、全てを包んで受け止めてくれるはけ口なんて無い。

痛い、苦しい、寂しい、悔しい……、たくさんの感情が交錯して、絡まって。簡単にはほどけなくなり、また新たな混乱を引き起こすだけ。

それでも温もりを求めるのは、気休めでもいい、ただ今は隣に居てほしいと思ったから。

隼人の胸の中で、声を押し殺して泣き続けるあたし。その頭や背中をさするだけで、隼人は特に何も言わなかったけれど。

それが隼人のあたしに対する優しさだということは、わかっているから。


「……紫音、もう泣くなって。」


そう言われても、顔は隼人の胸に押し付けたまま。未だ募る不安が、今は何よりも怖い。
< 203 / 396 >

この作品をシェア

pagetop