恋せよ乙女

案の定、彼の手にも数枚の書類があるわけで。


「…こんなところで油売ってる暇なんてないよ、山宮昴。さっさと行かないと。」

「めんどくせー。」


そんな会話を交わしながら山宮の腕を引っ張ると、今度はあたしの方に視線を向けた。


「まったく…。キミのせいで大事な仕事を忘れるところだった。直球勝負はいいけど、僕は忙しいんだから、時と場合を考えなよ。」


そして、微かに上がる口角。
もちろんそれは、苦笑に分類されるような笑みだったけれど。


「じゃあ時と場合を考えて、またアタックしますっ!」

「……僕は い つ も 忙しいけどね。」


そう言い放ってあたしに背を向ける間際、ほんの少しだけあの笑顔で笑ってくれたのは、気のせいじゃないと思うから。
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