恋せよ乙女

「おっはー、紫音……って、何よその顔。 何かあったの?」


いつも通りの学校、いつも通りの教室。
何事も無いように、いつも通りに教室へ入ったつもりでいたあたしを、世奈の怪訝そうな瞳が見つめる。


「何か、って何。ってか、顔に文句言わないでよ。元々なんだから仕方ないでしょ。」


だから、おどけたようにそう言って、自分の席に腰掛けたけれど。


「そういう意味じゃないわよ。」


さすが親友…、というか、何と言うか。
明らかに何かあったことに気づき、まるでそれを言えとでも訴えているような強い瞳に、苦笑が漏れる。と同時に、目頭がじわっと熱くなった。


「……って、え、ちょ、紫音? マジでどうしたの。まさか、また何かあった?」

「何でもなっ……!」


“何でもない”
そう言って笑うつもりだったのに。
無理矢理上げた口角に反して、堪えきれなかった涙が流れそうになる。今さらだけどそれを見せたくなくて、そっと顔を伏せた。
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