恋せよ乙女

――そして、刹那。


「紫音、ごめん。」


脈絡もなく紡がれた謝罪の言葉に、あたしの理解が追いつかなかった。

だって、ただでさえどうしてそんなつらそうな表情をされるのか、向けられるのか、それさえもわからないのに。

顔をあわせて間もなく、いきなり“ごめん”だなんて、本当に意味がわからない。この人は一体、何を言ってるの。

考えれば考えるほど、混乱していく頭。
思考の深みに嵌まっていくのと同時に、再びズキンと頭が痛んで考えるのをやめた。

だから、


「……何で“会長さん”が、見ず知らずのあたしに謝るの?」


考える代わりに、“会長さん”に向けて発してみたストレートな問い掛け。でもその問いに、一瞬、場の空気が凍りついたような気がした。
< 266 / 396 >

この作品をシェア

pagetop