恋せよ乙女
「ちょっと紫音。さっきから、何で一人百面相やってんのよ。」
そんなため息混じりの言葉が聞こえ、ふと我に返った。反射的に声の主を見れば、呆れたような表情を浮かべてあたしの顔を覗き込んでいて。
「一緒に帰ろうって、約束したでしょ。いつまでそうやってるつもり?早く行こう。」
「…あぁ、そうだった。ちょっと考え事してたんだ。ごめん世奈。」
「まぁ、いいけど。」
一応退院したばかりだということで、あたしのことを心配してくれていた世奈。
とりあえず、しばらくは一緒に帰ろう、と誘ってくれていたことをすっかり忘れていた。
ごまかすように苦笑を零せば、再び、世奈からは盛大なため息が漏れる。
そしてあたしたちは、二人並んで人が疎らになった教室を出た。