恋せよ乙女
確かに、本当に、見覚えはない、けれど。
彼女を見た瞬間、チクリと痛んでざわめいた胸に疑問を覚え、もう一度じっくりと彼女の顔を見てみる。
でも今度は何にも感じられなくて、さっきのは気のせいだったのだと思うことにした。
だけどあたしの名前を呼ぶってことは、少なくても相手はあたしのことを知っているという訳で。
「……ごめん、誰だっけ?」
小首を傾げてそう問えば、彼女は微かに眉を顰める。そして、
「誰だっけ?って……。もしかして加藤さん、私のことも覚えてないの?」
「あぁ、うん。」
“私のことも覚えてないの?”
その問いから導かれたのは、目の前の彼女も欠落した記憶の一部分なのだという、勝手な推測。
まだまだ推測の段階だけれど、そんな関係者があたしに何の用があるというのか。訝しげに彼女を見遣れば、彼女は真剣な瞳をあたしに向けていた。