恋せよ乙女

もうすぐ夏休み、か……

どうせ前半は夏期講習やら何やらで、休みらしい休みなんてないだろうけれど。

それにしても、あっという間の一学期だったな。駆け足で過ぎていく時間が、何故か無性に虚しく感じた。


「おい、加藤。さっさと出ないと、資料室に鍵かけちまうぞ。」

「…あ、すみません。」


先生に呼ばれ、ハッとしてあたしも資料室を出る。そして、カチャリ、と鍵をかけられるドアを見ながら、大きく伸びをした。


「いきなり悪かったな。でも助かったぞ。」

「あはは、気にしないでください。」

「じゃ、気をつけて帰れよ。」

「はい。さようなら。」


職員室前で、小さく右手を上げる先生に軽く頭を下げ、別れる。そしてあたしは、玄関に向かう前に一度、教室に戻ることにした。
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