恋せよ乙女
最早、あたしの耳には世奈と隼人の声なんて聞こえていなかった。ドキン、ドキン、と高鳴り続ける鼓動に、連動して頭が痛む。
“恭君には会わせない。”
そしてその痛みの狭間から、不意に記憶の断片が浮かび上がってきた。
“鈴木さんには、関係ないでしょ。”
“関係ないわけないでしょ。前にも言ったわよね。私も恭君が好きだって。”
―――鈴木、さん……?
どうやらあたしは、鈴木さんと話しているようだ。ぼんやりと浮かぶ情景、あたし達が居るのは階段…?
“だからあなたに、今の恭君は会わせられない。”
かろうじてわかるのは話題が会長のことであるということだけで、いつの記憶なのか、それは全くわからないけれど。記憶が進むごとに、頭痛の酷さは増していく。
ぐわん、ぐわんと回るような視界が気持ち悪くて、頭を抱え、強く目を閉じた。