恋せよ乙女

やわらかくて座り心地のいい黒革のソファーが、記憶の断片に作用してそれを呼び覚ましていく。

……―――ああ、懐かしい。

不意にそう感じたあたしの失った部分が、間違いなくあたしがこのソファーに座ることも今が初めてではない、そう告げていた。

確証はないけれど、思い出し得る記憶の中で、その記憶が朧気に浮かんでは消えた。


「……ところで、さ。君の話って、一体何?今の紫音が僕を訪ねて来るなんて、何か意外だね。」


会長とあたし、二人きりの生徒会室に、広がりかけていた沈黙を破った会長の声が無性によく響く。

――あたしの、聞きたいこと……。

そんなのは決まっていて、今だってそれを確かめるためにここに来たっていうのに。

あたしを見据える会長の瞳があまりにも真剣で、威圧感に気圧されたあたしは言葉一つ発することができなくなった。
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