恋せよ乙女
“いつまでも彼女面されると、私にとっても恭君にとっても迷惑だわ。”
ああ。頑丈なドアを隔て、あの時そんなことも言われたんだっけ。
でも彼女面だなんて、全く笑わせるわ。あたしが彼女面をしてるんじゃなく、紛れも無いあたしが会長の彼女なのに。
「キミが記憶をなくしてから、少し考えてみたんだ。」
溢れ出す記憶の隙間、耳に届く目の前の会長の言葉。極めて短時間の中で脳内に流れ込む、膨大な記憶でショートしそうな思考回路に気づかないフリをして、彼の声にも耳を傾ける。
「もし紫音が、辛くて本当に忘れてしまいたくて、記憶をなくしてしまったんなら……、それなら、無理に思い出させる必要は、無いんじゃないかって。」
そして刹那、放たれた言葉と伝わって来る想いが、瞬時にあたしを射ぬいた。
無理に思い出させる、必要が無い?
それは、何か違う気がする。
あたしはちゃんと、思い出さなきゃいけないでしょ?
悲しげに揺れる瞳があたしを映し続ける中、もう一度自分自身に問い掛けた。