恋せよ乙女
「思い出して紫音がまた、悲しかったり辛かったり、そんな思いをするくらいなら、僕は紫音がこのままでも別に構わない。」
続く会長の言葉が、悲しく反響して耳を通り抜けていく。思い出せなくてもどかしい、思い出す度に頭痛が走る、それとは違う痛みに胸が軋んだ。
“紫音、大丈夫……大丈夫だよ。あんたはちゃんと、会長に想われてる。何も心配することなんて無いじゃない。あの会長が、こんなガラでも無いことをしてくれるのは、あんたのためにだけだよ、きっと。”
“今ならまだ、間に合う。それに、会長ならきっと、あんたのことをわかってくれる。”
そして不意に脳裏を過ぎったのは、優しげな世奈の言葉。その言葉から鮮明になっていく記憶は、あの日…、階段から落ちた日のことを、あたしにしっかりと思い出させた。