恋せよ乙女

忘れてしまっていたのは、本当にたくさんの記憶…。それはやっぱり、楽しいものばかりじゃなかったけれど。

あたしにとって、全て大切でかけがえの無いものには変わり無いのに。どうしてあたしは、忘 れ て し ま っ た ん だ ろ う 。

確かに忘れたいと思うことも、なかった訳じゃない。だけどあたしが、大切な氷室さんのことを忘れてしまうなんて。


「だから紫音、無理に思い出そうなんて、そんなこと思わなくていいよ。例え紫音が思い出さなくても……って、紫音?」


あの日、記憶を失った日に病室で見た氷室さんの表情が、今現在あたしに向けられている微笑と重なる。

自然と溢れ出た涙に、氷室さんの瞳が微かに困惑に揺れた。
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