恋せよ乙女

「ごめんなさい、氷室さん……。
迷惑も心配も、たくさんかけて。何も知らないで、あたし、氷室さんを傷つけるようなことばっかり…。それなのに、氷室さんのことを忘れてしまうなんて……本当に、ごめんなさい……っ!」


あたしが今、氷室さんに言いたいことはたくさんあるはずなのに。

口をついて出てくるのは謝罪の言葉ばかりで、開いた口から大切なことは、何一つ発することなんてできなかった。

ただひたすら零れる謝罪の言葉に、氷室さんの表情が微かに歪む。

――そして、


「謝らないでよ、紫音。でも、そっか。思い出したのか、全部。
……まぁ、それにしてもキミは、相変わらず僕の話をちゃんと聞かないみたいだね。」


そう言って漏らされた盛大なため息に、俯きかけていた視線を上げた。
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