恋せよ乙女

「え?」

「え?じゃなくて。人の話はちゃんと最後まで聞きなよって、前にも言っただろ。」


思わず間抜けな声で聞き返せば、言葉を続ける氷室さんの表情に呆れたような笑みが浮かんだ。

最後、まで――…

そしてその言葉で思い出す、ついさっきの氷室さんの言葉。

“例え紫音が思い出さなくても”

そういえばあたしのせいで、そんな半端で言葉を切らせてしまったんだっけ。


「……例え、あたしが記憶を思い出さなくても?」


小首を傾げてそう問い掛ければ、氷室さんは「うん、そう。」と短く答えながら、ソファーからゆっくりと立ち上がる。

そしてあたしの目の前、あたしの目線に合わせるよう屈み込み、そっと、あたしの頬の涙を拭った。
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