恋せよ乙女
そもそも、今日の待ち合わせもあたしから話を持ち出した訳ではない。
“あなたが忘れた記憶、取り戻す手伝いをしてあげたいの。”
まだあたしが記憶を取り戻したことを知らない鈴木さんに、今日の昼そう話し掛けられたのがきっかけだった。
あたし自身、鈴木さんに話はあったし。
ちょうどいいタイミングで向こうから話し掛けてくれるなんて、これほど好都合なことはないと思ったあたしは、事実を伏せて、彼女の誘いに乗った。
“放課後、私の教室で待ってるわ。”
“わかった。じゃあよろしくね。”
でも、その会話をたまたま聞いていた隼人のせいで、世奈にまで話は広まってしまったのは誤算だった。
案の定、さっきのように直前になるまで心配されたあげく、氷室さんにまで伝えようとするんだもん。さすがに焦る。