恋せよ乙女

まず、どう話を切り出そうか……

今さらだけれどそれを考えあぐね、夕闇に染まりゆく空に視線を投げる。

時折、正面から鈴木さんの窺うような視線を感じたけれど、気づかないフリをした。

―――刹那、


「……まず、一つ確認してもいい?」


ゆっくりと、でもハッキリと紡がれた問いがあたしの鼓膜を刺激する。発された問いを不審に思って視線を向ければ、強くあたしを見据える瞳と視線が絡んだ。


「確認、って何?」

「あぁ、別にたいしたことじゃないの。ただ加藤さん、あなた、まだ何も思い出していないのかなって。」

「……え?」


“まだ何も思い出していないのかな”?

何で、そんなことを聞くの。
訝しさを露にしたまま、鈴木さんの言葉を待った。
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