恋せよ乙女

「あ、いやほら。こういうのってちょっとしたきっかけで思い出すらしいから、あなたも何か少しでも思い出したりしてるのかなって、そう思っただけよ。」


あたしが向ける視線に何を感じたのか、鈴木さんは若干焦ったようにそう言葉を紡ぐ。

その様子から、相当あたしに記憶を思い出されたくない、そんな感じが窺えた。


「……そう。なら、あたしからも一つ、確認してもいい?」

「? ええ。もちろんいいけど……。」


――でも、だったら。

あたしが記憶を取り戻したという事実をふせたまま、もう一度ちゃんと聞かせて。あたしに確認させて。

あたしから鈴木さんへの確認事項……、間違いなく核心に触れてしまう、鈴木さんがあたしについた嘘を。


「鈴木さんと会長は今、本当に付き合っているの?」


不思議そうに揺れていた彼女の瞳は、あたしの問いに一瞬、大きく見開かれたけれど。

改めて問いかけたあたしに、まだその嘘を貫くのかどうか、どうしても気になった。
< 344 / 396 >

この作品をシェア

pagetop