恋せよ乙女

ただ真剣にそう訴えた刹那、鈴木さんは楽しそうに、かつ可笑しそうに、高らかな笑い声をあげた。


「あははっ!何言ってるの、加藤さん。私に恭君を諦めろって、そう言いたいの?」

「端的に言えば、ね。」


あたしが答え終わるや否や、がたん、そう大きな音をたてて、鈴木さんは立ち上がった。

そしてあたしの傍らに立ち、鋭い目であたしを見下ろす。


「馬鹿ね。そんな簡単に、諦められる想いじゃないわ。それに、例え私が身を引いたとしても、あなたにだけは恭君は渡さない。」


“恭君は渡さない”

その言葉が以前聞いた言葉と重なり、何度も何度も反響する。

でも、そんな簡単に諦められる想いじゃないっていうのは、あたしも痛いほどわかる。

お互い、諦めろと言われて「はい、そうですか。」そう言って諦められるくらいなら、最初からこんないざこざが生じることも無かったのだ。
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