恋せよ乙女

「…“負けたくない”って、あたしは別に、鈴木さんと勝負をしてる訳じゃない。」


確かにあたし自身、鈴木さんの嫌がらせや見せ付けるような行為に負けないようにしよう、そう思うときはあったけれど。

それは、氷室さんとのこととは別物。
あたしの中で恋愛は、他人と競い合い、勝負する事柄ではない。

それに、


「第一、氷室さんはモノじゃない。渡すとか渡さないとか、こういう会話自体おかしいと思うんだけど。」


感情の無いモノとは違って、氷室さんには当然ながら感情があるのだ。第三者である一個人の都合によって取引されるような、そんなんじゃなくて、もっと他に優先されるべきことがある。


「誰が好きで、そばにいたいかなんて、そんなのはあたし達が決めることじゃない。大切なのは、氷室さん本人の気持ちでしょう?」


まるで訴えかけるように、諭すように、ゆっくりと言葉を紡げば、刹那、鈴木さんはバツが悪そうに視線をそらした。
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