恋せよ乙女
たまには素直に従って帰ろうかな。
迷惑がられるのはだいぶ慣れたけれど、確かに毎日アタックしてたら氷室さんに申し訳ないし…。
なんて、珍しく思ったりもして。
「……わかりました。今日はもう、帰ります。」
「え?……あぁ、珍しいね。」
あたしの言葉に驚いたのか、滅多に見ることのできない氷室さんの面食らった表情に、思わず零れた笑み。
「…何笑ってるの?人の顔見て笑うなんて失礼だよ。」
「あ、すみません。氷室さんでも驚くんだなーって思って。」
「キミは僕を何だと思ってるの?」
こんなどうでもいい会話でも、交わせるだけで幸せだ。
「ふふ。何だとも思ってないです。ただ、大好きなだけですからー。」
「………だから、しつこい。」
盛大なため息をつく氷室さんを見てから、あたしはドアに手をかけた。