恋せよ乙女

「………ありがとう。」


それが鈴木さんの声であると認識するまで、およそ3秒。ありがとう、そう紡がれた言葉にあたしは出しかけた言葉を飲み込んで、氷室さんと顔を見合わせた。もちろん、その五文字が指し示す意味がわからなかった訳じゃない。


「……香波?」

「鈴木、さん?」


けれど、あまりにも意外な言葉に氷室さんとほぼ同時に口を開けば、鈴木さんは潤んだ瞳であたし達を交互に見つめる。そして、


「…――もう、邪魔はしない。けど、やっぱりすぐには諦められないから。まだもう少しだけ、好きでいさせて。」


訴えるように言葉が紡がれる度、瞳から涙が溢れ出る。すでに幾筋もの涙の跡はできているし、顔全体、もう涙でぐしゃぐしゃだけれど。

全てを受け入れて、自分の過ちに気づいて。


「ダメ、なんて、言う訳無いじゃん。」

「……ありがとう。」


あたしの答えに、再度そう小さく呟いて笑みを浮かべた鈴木さんは、やっぱりとても美人だった。








【 END...? 】
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