恋せよ乙女

はびこる喧騒に眉根を寄せ、人混みを避けながらしばらく走ると、徐々に見えてきた目的の店。

お洒落な外装は全く変わってなんか無くて、そんなに長い期間が空いた訳じゃないのに、懐かしさが込み上げる。

乱れた息を正し、ゆっくりとドアを開ければ、同時にチリン、と、涼しげな音が鳴るのも変わりない。
ゆっくりと踏み入れた店内には、やはりあの日と同じ、クラシック音楽が流されていた。

ひとしきりその雰囲気を懐かしんだ後、アンティーク調で揃えられた店内をぐるっと見渡す。でもバスとは反対に、休みだからかやけに人が多くて、人が邪魔で氷室さんの姿が見当たらない。

小さな背であることを心底恨んだ刹那、


「紫音、こっち。」


背後からぐいっと腕を引かれ、カウンター横のこじんまりした席へと連行された。
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