恋せよ乙女
外から聞こえてくる、サッカー部や野球部の声。それを除けば、珍しいほど静かな校内。
その静寂を破るように、口を開いたのは氷室さんだった。
「…フリーで捧げるくらいなら、その辺に捨ててきなよ。」
「えー。」
「…いや、えー。じゃなくて。」
フリーで捧げてるのは、氷室さんにだけなのに――…
皮肉めいた言い方に、広がるオレンジに、切なさは増していく。
「おっ、紫音じゃねーか。
帰宅部がこんな時間まで何してんだよ?」
そんな暗くなりかけた雰囲気を壊すように、脳天気な声があたりに響いた。
氷室さんとほぼ同時に声の方に視線を向ければ、陸上部の練習を終えたのであろう、ジャージに身を包んだ隼人がオレンジに背を向けて立っていた。