恋せよ乙女

「何やってるの?急がせるようなことは言ったけど、もっとまわり見て歩きなよ。相変わらず落ち着かないね、キミは。」

「あ、はい。ごめんなさい。」


あたしの顔をのぞき込むような氷室さんに、真っ赤な顔を見られたくなくて。
思わず、隠すように視線を逸らした。


「…紫音?」

「何でもないです!さ、帰りましょうか!」


不思議そうな表情で首を傾げた氷室さんに背を向け、先に生徒会室を出る。

氷室さんと再び顔を合わす前に、薄暗い廊下の冷気で火照った頬を何とかしずめた。

残ってる生徒なんていない、ほぼ無人の学校。コツコツと、普段はあまり聞くこともない足音が、やけに大きく廊下に響く。

ってか、思いのほか不気味…
さっきの暖かさなんて嘘のように、ひんやりとした空気に包まれていた。
< 51 / 396 >

この作品をシェア

pagetop