恋せよ乙女
絶対、この時間に1人で校内なんて歩きたくない。そう、心から思った刹那、
「……紫音。」
「あ、はい?」
広がる静寂を破るように、ぽつりと発されたあたしの名前。そのよく響く低い声に、あたしは耳を傾ける。
「こんな時間まで、仕事につきあわせてごめん。本当ならキミは、とっくの昔に帰れたはずなのに。」
「何言ってんですか、氷室さん。
あたしが好きで残ったんですよ。」
そう、あたしが勝手に。
だから、氷室さんがごめんなんて、謝る必要なんてないんです。
「だから、氷室さんは気にしないでください。」
あたしが笑ってそう言えば、
「ありがとう。」
そう、氷室さんが言葉をくれた。