恋せよ乙女

さっき隼人と会ったときはオレンジ色に染まっていた玄関も、今やもう、群青色に包まれていて。

広い玄関から外に出れば、廊下よりもっと冷たい空気があたしたちを包んだ。

あまり街灯がないこの地域、道を照らすのは数少ないそれと、不思議な光を放つ月明かりだけ。

ぼんやりと浮かぶ二人分の影。それが並んでるのを見て、今は二人きり、そう改めて感じ、また緊張してきた。

少し距離を置こうかと、隣の氷室さんから五歩分くらい後ろに下がって歩を進める。


「…何でそんなに離れて歩くの?」


そんなあたしを不審に思ったのか、立ち止まって振り返り、そんな質問をぶつけてくれた氷室さん。

当然といったら当然の問いなんだけれど、とりあえずあたしは苦笑い。
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