恋せよ乙女
でも、だって。
“クッキーを作ってこうやって氷室さんに渡すとき、氷室さんと少しでも話をすることができるから。”
だなんて、そんなこと、さすがに本人に言うのは照れるでしょ。
ただ二人っきりで話せるこの時間、この放課後が、あたしにとっての宝物。
それは間違いの無い事実であり、それこそが真の目的。だからつまりは要するに、クッキーなんてただの口実にすぎないのだ。
「…何それ。ま、いいや。それ程興味も無いし。別に頼んでないけど、コレ、一応ありがとう。」
例の如く呆れながらそう言い、手にしていた袋を顔の横で小さく振った氷室さん。そしてそれを再び机の上へ置くと、氷室さんは書類やら何やらを重ね始めた。
その様子を見ながらもう一つ、ふと思い出した自らの努力…。そのあるものを渡すために、ブレザーのポケットに手を突っ込む。