恋せよ乙女
――けれど。
いつまでもその激突の痛みを感じることはなくて。
「……紫音。キミ、こんなところで何してるの?」
耳元で響く低い声とともに、傾いた体は停止した。
聞き慣れた大好きな声に、思わず安堵のため息がもれる。
「…その声、氷室さ…?」
「そうだよ。でもそれより、キミは授業が始まってるこんな時間に、一体何して……って、熱いね。風邪かい?」
支えられてるせいで、あたしの熱が氷室さんに伝わってしまったのだろう。
あたしの火照った額に、氷室さんの冷たい手が触れた刹那、彼の表情が微かに歪む。
「…ちょっと不注意で、風邪、ひいちゃいました。」
へらへらと苦笑いを混ぜてそう返せば、氷室さんの表情は一層険しくなった。