恋せよ乙女
でも氷室さん…
それは、あなたが教えてくれないんでしょう?
どんなに聞いても、あたしとは一線引いて、どこか距離を置いている。
それでも、あたしと一緒にいる時間に、少しでも楽しさとかを感じてくれていたらな、なんて、やっぱり自惚れにしか過ぎなかった。
さっきよりも勢いを増した涙に、視界がかすんで見えない。確実に上がったであろう熱のせいで、ぼんやりする意識はもう正常な判断なんてできてなかった。
「…泣かないでよ、紫音。好きだとかよくわからないけど、キミに泣かれると本当に困るんだ。」
戸惑ったようにあたしに触れる、その手が好き。大好き。
「――っ、好き、です…、好き、なんです。氷室さんが…」
半ばつぶやくようにそう言えば、潤んだ視界の先、はっきりしないまでも、氷室さんがいつもみたいに呆れたように笑った気がした。