恋せよ乙女
でも、後悔なんて今更しても遅い。
だからギリッと奥歯を噛みしめ、さらにスピードを上げた。
途中で見つけたスーパーで適当に食べ物を買い、ようやくたどり着いた氷室さんの家は、ビックリするくらい高級なマンションの一室で。
躊躇いながらも氷室さんの部屋の前に立ち、乱れた呼吸をなんとか正す。
病み上がりで全速力で走ったせいか、滴る汗が尋常じゃないし、汗でくっつくブラウスが気持ち悪い。
それに加え、足もだいぶ限界が近い。
こんな格好で会うなんてやだな、なんて思わないわけじゃないけれど、ここまで来てそんなことも言ってられないので、そっとインターホンを押した。
―――でも。
案の定、反応はない。
寝てるのかな、とは思いつつ、今度はドアをノックしてみる。
だけどやっぱり、何も返事はなくて。
寝てるなら、寝てるでいいけど…。
もし…、もし、倒れてなんかしてたら…。
不安が膨らむ中、ゴクリとつばを飲み込む音が、やけに大きく聞こえた。