恋する受験生
「あらあら、いいのよ。紗江も部屋を片付けていたから紗江の部屋で教えてあげてもらえる?」
お母さんはそう言って、俊と私の背中を押した。
階段をのぼりながら振り向くと、お母さんはニヤニヤしながら俊の背中を見ていた。
「あ、紗江!ケーキ取りに来なさいね」
「は~い!!」
私は自分の部屋に俊を案内した。
「汚いけど…… ごめんね。そこらへん座ってて」
「うん。お邪魔します」
私はお母さんの元へ……
ちょっと怖い気もするし、楽しみな気もする。
お母さんから見た“俊”はどんなんだろう。
「お母さん?ケーキ取りに来ました」
ちょっとかしこまってみる。
「はい、ど~~~~~ぞ」
わざとらしく優しい声を出すお母さん。
「あまりにも好青年だから怒る気もなくなったわ。でも、男の子だって知ってたらお父さんは絶対反対だったわよ。もう…… 紗江にだまされたわ」
「ふふふふ~!やっぱり好青年だよね」
「ちょっと!!お母さんの話聞いてるの?」
「だって、好青年だって言ったもん」
「まぁ、感じのいい子よね。真面目そうだし、爽やかだし、礼儀正しいし。帰ってからじっくり説明してもらいますから」
お母さんは、怒ったフリをしたけど、多分もう許している。
最近のお母さんは、変わったから。
嬉しそうに勉強をする私を見ていて、今までの環境が良くなかったんだと反省しているみたいだし。
「お母さん優しいね! その方が私、好きだな」
今までなら絶対に言わないそんなセリフを言って、私は階段を駆け上がった。