恋する受験生
「俊君にもしも彼女がいたとして、それが何だって言うの?俊君が他の女の子にもぬいぐるみを渡していたからって、俊君を嫌いになるの?俊君が紗江にくれたものっていっぱいあるでしょ?」
お母さんの言葉を聞いて、私は目を開けた。
目の前にいるお母さん。
「ごめんなさい」
そうか。
俊がくれたものは、ぬいぐるみだけじゃない。
俊に出会わなければ、お母さんとこんな話もできなかった。
お母さんの胸で泣くこともできなかった。
お母さんに恋の相談をするなんて……
最高に幸せなことなんだってこと、忘れてた。
「お母さんは、今の紗江の方が好きだけどな」
「お母さん……」
俊のおかげで、家族がひとつになった。
受験受験とうるさかった両親が、変わってくれたのも俊のおかげ。
俊が実は悪い男だったとしても、俊を責めることなんてできない。
だって、俊は別に私に何もしていない。
付き合おうと言われたわけじゃないし、将来を約束したわけでもない。
勝手に私が恋をして、勝手に彼女に立候補していただけ。
俊は、俊なりの優しさで、私を包み込んでくれただけ。
俊、嫌いだなんて思ったこと許して。
嫌いだなんて言えない。
俊に言える言葉があるとすれば、それは“ありがとう”だ。