切恋~First Love~


イスごと近づいてきたから、ガツッというイスと床がぶつかる音がした。


奴はあたしの持っている導線に手を伸ばす。


だんだんアップになってきた、その手。


神崎涼が導線をつかむ瞬間、



手が触れた――――



一瞬手が小さく震え、触れられた部分からじわりと熱が広がってゆく。


心臓が、動きを早める。


そのまま神崎涼の手はあたしの手から導線をスッと抜き取った。


視線を落として、自分の手をまじまじと見る。


たった今のことが頭でグルグルとまわる。


初めて間近で見た、神崎涼の大きい手。


初めて触れた、神崎涼の指先。


体温は低くて、それがどこか大人を感じさせた。


自分より温度の低い手に触れられて、自分の手には熱が残る。


何て変な話。


視界が暗くて、机に影ができている。


落としていた視線を上げてみると、すぐ目の前には神崎涼の形のいい顎。


少し視線を移動させると、女でも羨んでしまいそうな艶やかな唇。


神崎涼しか見えない。


外の世界は、全く見えない。


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