レクイエム
今目の前にいる人物が一番警戒しなければならないんじゃないの、とツッコミたい衝動を何とか抑える。
彼は長い睫毛を一度伏せると、意を決したように顔を上げた。


「今日からこの洞窟を出るな」

「は?」

「ここは水竜に守られた聖域だ。奴らもここになら手は出せまい」

「意味が分からないんですけど…国が動き出すって言うの?」


ロゼルスが手のひらを返す日が来たのだろうか。嫌な汗が背筋を伝う。
しかし彼は更に深刻そうな表情を浮かべた。


「そんなヌルいもんじゃない。…ぞ…が、………くそ、こんなとこ……じゃ、限界か…」


目の前の男の姿がヴ…ヴ……と奇怪な音を立て、姿が歪む。


「ま…迎えに…来…から、大人しく……待って…ろ……」

「ちょっと待って!!」


情報が欲しい。
消えそうになっている彼を何とかつなぎ止めようと、ナキは駆け出した。
しかし体を掴もうとした腕は空を切り、バランスを崩しそうになり、何とか止まる。
一息も置かない間に彼はそのまま消えてしまった。
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