レクイエム
街に出発するまでの間にナキは寄る所があった。
アジトを舟で出て洞窟の入り組んだ場所。そこに大きく開けた湖があった。

澄んだ水だが、下を覗いても底が見えない程深い。


──来たのね


聴覚を介さず、直接脳に響き渡るような声。

少しずつ水面が揺れ、激しさを増し、大きな水音と共に蒼いドラゴンが顔を出した。


「リーヴァ」


リーヴァと呼ばれたドラゴンは、ナキの舟の元に近寄った。

洞窟の中にドラゴンがいるというのは事実らしい。


「昨日変な奴が現れたわ」

──ナキ…

「嫌な予感がする」

──そう…私も同じです。何か、邪悪な者が蠢いているような…その現れた者が、邪悪な者でなければいいのですが…

「ここは水竜──あなたの加護が強く、近寄れないと」


ナキが続く言葉を飲み込む。少しまごついた後、口にする決意をした。


「リーヴァ、もし私に何かあったら…仲間の事はお願い」

──ナキ…あなた……


リーヴァが心配そうにナキを見守る。しかし、彼女の決意は固いようだ。
言い出したら聞かない彼女の性格を知っている水竜は、観念したかのように溜め息をついた。
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