レクイエム
目の前に並ぶのは大量のネックレスやピアス、ブレスレット。どうやらこの露店はアクセサリー屋らしい。
隣にはカップルが陣取っていて、これが似合うだのあれが良いだのと楽しそうに会話している。


「あたしには無縁だな…」


色恋事には空っきし無縁のナキは、苦笑を浮かべながらその場所から離れる。
人混みの流れに乗り、歩いているうちにだんだんと流れが遅くなってきた。
終いには歩みは止まってしまい、何かあるのかと耳を澄ませてみると喧騒の声が微かに風に乗って聞こえてきた。
どうやらこの前方で喧嘩が繰り広げられており、そのせいで足が止まっているようだ。


「どこ見て歩いてんだ!」

「す、すみません…」

「お前が持ってたトマトで俺の服が染み付いたじゃねーか!」


小さい体を活かして人の隙間をかいくぐり、件の騒ぎの最前列まで辿り着いた。
体格のいい男に対し、街人の女性が謝っている。
会話の内容からして、女性が男にぶつかってしまい、その弾みでトマトが彼の服で潰れ染みになったと。そんな所だろう。
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