レクイエム
見てるだけじゃなくて助けてやればいいのに、と思ったが、相手の男の体格、人相などを見る限り口を挟めば自分もただじゃおかない。彼女には可哀想だが、いらぬ火の粉は被りたくないようだ。


ナキには関係のない事なので、皆が作った見えないボーダーラインを超え、騒ぎの中を突っ切る。空気を読まずに目の前を横切られた事に男は眉を跳ねさせた。


「おい女。何のつもりだ。お前も痛い目見たいのか?」


騒ぎを眺めていた街人がやってしまった、と呆れた表情を浮かべる。こんな輩に構ってやれるほどコンディションが良くないので無視を決め込んだが、それが更に男の癪に障った。


「このアマァ!ぶん殴るぞ!」


苛ついた男がすれ違ったナキの後ろから殴りかかる。これから起こるであろう惨劇を想像し、皆顔を背けたり目を閉じたり。とにかく少女が殴られる現実から目を反らそうとした。
──が、


「……うるさい」


後ろからの殺気を察知したナキは、寸での所で身を屈めて攻撃を避け、その勢いに乗って足払いした。
ふわりと浮いた男の体を、踵落としで地面に叩きつけた!
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