レクイエム

「馬鹿って何なのよ！」

「テメーは人の話聞いてなかったのか！」

「え…」


男が髪を掻き上げながら呆れた目で睨みつけてくる。
つまり、昨日男が言っていた警告はこうなる事を予測してのものだったのか。


「何であんな魔族が人間界にうじゃうじゃと？」

「お前、何も知らないのか？」

「文献くらいは趣味で読むけどあたしは学者じゃないのよ。知るわけないじゃない」


ナキの返答に、男は顔色を変えた。

ジャリ。


一歩、近寄る。
砂利を踏み締める音がやけに耳につく。
急に彼の纏うオーラが変わった気がした。警鐘がまた脳裏に鳴り始め、腰が抜けたまま何とか後退りする。
すぐに瓦礫へと追い詰められ、後ろには退けなくなってしまう。
ナキの顔の横に手をつき、完全に逃げ道を塞いで距離を縮める。
そのまま耳元へ、吐息がかかる位置まで近付ける。


そして彼は囁いた。








「それはお前が魔族だからだよ」