レクイエム
幸い市民は避難していた為被害はそんなに多くなかった。港付近に関しては建物に関してもほぼ被害がなかったので、港の一角にある宿で一部屋借り回復を待っている状態だ。

この部屋に入ってからすでに1時間半は経っているはずだが、ナキはその時からずっとこの調子。部下に危険な目にあわせた自分の迂闊さに打ちのめされているのだろう。

痺れを切らしたアレスがソファから立ち上がり、ナキに歩み寄った。
ベッドの傍で腰を下ろしている彼女の腕を引っ張り、無理やり立ちあがらせた。


「いつまでこうしている。俺たちは行かなきゃいけない場所があるんだぞ」

「…あたしは海賊の頭よ。どこにも行かないわ」


イラついた口調のアレスにも動じない。
ただ虚ろな瞳を向けるのみだった。突き付けられた現実があまりにも辛酸で、彼女の精神は弱り切っていた。
今日1日で全てが変わってしまったようで、今まで当然のように過ごしていた日常に戻りたい。
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