レクイエム
観念したことを悟ったアレスはようやく腕を解放した。
気だるそうに元いたソファーに派手に腰掛け、ため息を零す。


「俺はソファーで寝るから、お前はもう1つのベッドを使え」

「…分かった」


素直に彼の提案を受け入れる事にする。彼の存在で現実を思い知らされるので、何とか接触を絶ちたいのだ。眠りに落ちる事が出来れば、一時的にでも現実を忘れられるし、彼から話しかけてきたりはしないだろう。
クレンスの隣に並べられたベッドに腰を下ろし、ヘアゴムを外して髪を下ろした。
体をベッドに横たえ瞼を下ろし、程なくしてやってきた睡魔に従い深い眠りに落ちていった。





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彼女の呼吸が穏やかになってきた。眠りに落ちたようだ。アレスはソファーから立ち上がり、ナキの眠るベッドへ歩み寄る。


「何も覚えてないのか……?」


振動を与えないよう、起こさないようにと注意を払いながらゆっくりとベッドに腰を下ろす。自らが魔族であることも忘れ、人間だと信じ生きてきたのだ。
少し酷な事をしたかと後悔もした。ただ、部下が瀕死になりこんなにも苦しんだナキの事だ。例え日常と離れてしまうことになったとしても本当の事を言った方が彼女の為だろう。

一筋、彼女の頬を涙が伝う。

――嫌な夢でも見ているのだろうか。

そっと指で涙を拭ってやった。
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