レクイエム
また涙が溢れ出し、しゃくり上げそうになるのを必死に抑えた。
ただ、今は悲しみからではなく嬉しさから溢れる物だ。
愛情に満たされるような感情を全身で受け止めている。


「…ごめんね見苦しい所見せて。」


気持ちを切り替える為、彼女は立ち上がった。


「こんな所で泣いてても仕方ないしね、行こうか」


乱暴に涙を拭い、不器用に微笑んだ。
アレスがくしゃりと彼女の頭を撫でてやると、照れ隠しか手を払いのけられた。

奥歯を噛み締めて表情も引き締める。
もう泣くのはやめだ。
現実から逃げないで、しっかり前を見て進もう。
そうじゃなければ家族達に示しがつかないではないか。

ナキは歩き出す。
正直自分が魔族なのも認めたくはないが、それが現実ならば向き合おう。
ナキ自身ではなく、“クーラ”自身と。
1つずつ許して行けばいい。
1歩ずつ歩けばいい。

かくして賽は投げられ、クーラとアレスの旅の始まった。
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