王国ファンタジア【雷電の民】
妻は俺が使者に選ばれたと聞いたとき、泣いて止めた。

俺の意志が変わらないと知るや自室に駆け込んで、出立まで口も利いてくれなかった。

出立の朝、彼女の部屋に向かうと内側からドアが開いた。久しぶりに見る彼女はどこかやつれていて、泣き腫らした目が痛々しかった。

<必ず帰ってきて>

そんな言葉とともに差し出されたのは小さなポプリ。妻のいつも付けているものと同じ香がした。

<私のもとに、何があっても…、帰ってくるとっ…約束、して…っ>

俺の方を見ないで必死に涙を堪える妻に我慢が出来なくなった。強く抱きしめ、普段は絶対にしない約束を交わした。

<帰ってくる。お前のもとに。必ず。待っていてくれ>

と。



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