Utopia







…雰囲気からして、身体で払えとか言われたらどうしよう。


また脛はムリかな…。

噛み付いて逃げて、さっきの交番まで走ろう。家族より頼りになる気がする。









顎を掴んでいた指が、首筋をくすぐってくる。
思わず身体を捩れば、クスリと笑う変態。ここまでくれば、コイツの罪は今日の私より重いだろう。









「あーもう!頼みでも命令でも早く言ってよ!あたしは早く家に帰りたいの!なんでも聞いてやるから!!」









一気に捲し立てると、一瞬だけ驚いた変態はまたもとの不敵な笑みに戻った。


…うざい…。









「…へぇ、」

「速くしてよっ。」

「……俺は、君を助けたよね?」

「だからなに…っ、」





「だから…今度は……」



男の額が私の肩に着く。
甘えるようなその仕草を払いのけるのは簡単だった。

でも、そうしなかった。









「…君が俺を助けてよ…。」











できなかった。





その声は、
さっきまでとは全然違って
私が切なくなるような、
そんな哀しい声だった。







< 12 / 43 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop