Utopia
…雰囲気からして、身体で払えとか言われたらどうしよう。
また脛はムリかな…。
噛み付いて逃げて、さっきの交番まで走ろう。家族より頼りになる気がする。
顎を掴んでいた指が、首筋をくすぐってくる。
思わず身体を捩れば、クスリと笑う変態。ここまでくれば、コイツの罪は今日の私より重いだろう。
「あーもう!頼みでも命令でも早く言ってよ!あたしは早く家に帰りたいの!なんでも聞いてやるから!!」
一気に捲し立てると、一瞬だけ驚いた変態はまたもとの不敵な笑みに戻った。
…うざい…。
「…へぇ、」
「速くしてよっ。」
「……俺は、君を助けたよね?」
「だからなに…っ、」
「だから…今度は……」
男の額が私の肩に着く。
甘えるようなその仕草を払いのけるのは簡単だった。
でも、そうしなかった。
「…君が俺を助けてよ…。」
できなかった。
その声は、
さっきまでとは全然違って
私が切なくなるような、
そんな哀しい声だった。