Utopia
「……どこいきやがった?」
少し離れたところから警官の声がする。
小さな舌打ちの音。
そして更に離れていく足音。
どうやら、私は助かったらしい。
「お巡りさんに追いかけられるなんて、随分変わった娘だねぇ。」
耳元で聞こえた声で我に帰った。知らない男だ。
よくわからないが、この人はたぶんこの家に住んでいて、私を裏口から引きずり込んだんだろう。
「そして今、私に後ろから抱き付いてる…と。」
「うん?」
「お巡りさーん!変態がいます!助けてー!!」
「ウソぉ!?」
男は本気で焦ったように私を放した。
私も本気だったわけもなく、助けてくれた男の方を振り返った。
「えー、と…ありがとうございました。助かりました。」
「んー、良く分かんないけど、君悪いことしたわけじゃないよね?助けない方がよかったのかな?」
「いえいえ、たぶんあの人、最近よく噂になってるコスプレマニアの変態だと思います。本当に助かりました。」
間違いなく今日一番悪いことをしているのはこの私だ。