Tears〜硝子細工の天使〜
‡一本の電話‡
公園の木々達もすっかり衣を落とし、冬支度を始め、街ゆく人々達が気忙しく行き来する師走。
秀人が苦しい声で電話してきた。
「頭が痛いんだ。割れそうに痛い…」
「風邪でもひいたんじゃない?薬ある?」
「ない…でも大丈夫、そのうち治まるから。
ごめんね、今日は家で寝るから、行けないよ」
いつものおどけて明るい話し方とは違っていた。
佳奈子は心配で居ても立ってもいられなかった。
「そんなことは気にしなくていいよ。
それより心配だよ。薬持って行こうか?」
「ダメ、来ちゃダメだよ?もう遅いし、危ないから」
「……でも…気になるし、大丈夫だってば!」
「すぐ寝ちゃうから…
ホントに来なくていいからね。無理しちゃダメ!」
秀人に強く言われ、その場は
「おやすみ」と一旦電話を切った。
秀人の家は遠い。
高速を乗り換え、インターを下りても20分はかかる。
時間にすると、片道50分だ。
一回の高速代も往復すれば二千円は越える。
秀人はなるべく佳奈子に、肉体的にも、金銭的にも負担をかけまいと、配慮してくれていた。
それで来なくていいと強く断ったのだ。